「医療オピニオン」では、医療政策や医療制度などに関連することを、独自の視点で分かりやすく解説します。
今回のテーマは、『医師不足について考える、本当に医師は足りない?いつになれば解消される?』です。
本テーマは三部構成を予定しており、次回作が、『医師不足の中身を整理する - 医師の偏在』、
最終回は、『医師不足の中身を整理する - 様々な偏在対策』をお届けします。
1. 医師不足の中身を整理する - 医師の養成数
我が国において、長らく医師不足が大きな社会問題とされ、その叫びは一向に止む気配がない。特に、地方においては、医師不足を要因として特定の診療科の休止や医療機関自体が閉院するといった話も珍しくない。
そもそも医師不足とは一体何なのか、ここでは医師不足の中身について個別に整理したい。
まずは、医師不足に関連するプラスとマイナスの要因について考えてみよう。
プラスと考えられる要因
- 医師の養成数の増加
- 海外からの医師の流入(外国人医師+日本人の海外医学部卒者)
- 医療施設(病院・診療所等)の減少
- 患者数の減少
マイナスと考えられる要因
- 「医師の働き方改革」
- 女性医師の増加
- 医師の臨床分野からの離脱(医師の死亡も含む)
- 医師志望者数の減少
- 若い世代の働く事に対する意識の変化
- 患者数の増加

出典:「第9回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」
現状、プラスの要因として最も影響しているのが医師養成数の増加である。その歴史を紐解くと、我が国では、国民皆保険制度における質やアクセスの充実のため1970年からの約10年間、「一県一医大構想(無医大県解消構想)」により一気に8,000名/年を超える医師養成数となったが、その後の経済成長鈍化の影響もあり、医療費抑制策のもと医師養成数が7,625名で長らく固定される時代が続くこととなった。
医師養成の抑制の時代が長く続く中、▽高齢化の進展による医療需要の増加、▽医師の専門性(臓器別医療)の高まり、▽2004年の初期臨床研修制度の開始など、様々な要因が重なる中で全国的に医師不足の声が高まることになった。
そうした声を受けて国は、医師養成数増加に舵を切り、新たに臨時定員増(地域枠・地元出身者枠)を設け、現在は2つの医学部新設を加えて年間約9,400名前後の医師養成数となっている。
2. 働く医師の側からの「医師の働き方改革」
我が国の医師数が足りているかいないかを論じる際には、医師が診る患者数(の推移)がどの様な状況にあるのか、つまり、今後、人口動態などにより大きく変化していく医療需要に対して医師の供給数はどうなのかを考える必要がある。
国はこれまで、「医療従事者の需給に関する検討会」、および、「医師需給分科会」において、様々な側面から医師の需給について検討し、数度に渡り医師の需給推計を示している。それによれば、「医師の働き方改革」で長時間労働の上限規制が進む中、年間の労働時間制限により
- 720時間/年間制限[需要ケース1]
- 960時間/年間制限[需要ケース2]
- 1,860時間/年間制限[需要ケース3]
3つのケースに分け供給を推計が行われている。
その結果、中位[需要ケース2]では2029年頃に医師数約36万人、上位[需要ケース1]推計でも2032年頃に医師数36.6万人で需給が拮抗するとしている。
つまり、医師の働き方が960時間/年制限[需要ケース2]と仮定すれば、日本全体としての医師数は、計算上は足りるということになる。
「医療従事者の需給に関する検討会」、および、「医師需給分科会」では、2022年2月7日に「第5次中間とりまとめ」を公表し、同検討会・分科会において様々な検討を重ね、医師需給の推計などを考慮して、医師養成数は見直す(減じる)必要があるとの方向性を示した。
但し、全国的に見て医師数が足りたとしても医師数の地域偏在、更には、診療科偏在が存在するため、そうした偏在対策を実行しつつ地域の実情を考慮し、かつ、一定の期間(10年程度)を掛けて対応する必要があるとした。
また、診療科偏在の背景には、医師の専門分化が進んだことが一因として考えられるとして、「総合的な診療能力を有する医師の養成」の必要性を強く提言している。

出典:「医療従事者の需給に関する検討会第35回医師需給分科会」
次回、『医師不足の中身を整理する - 医師の偏在』に続きます。
3.最後に
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< 著者のご紹介 >
株式会社メディカル・プリンシプル社
地域連携推進室 医療政策担当 千坂一也
医薬品流通業での事業開発、および企業経営を経て、2007年より当社で勤務。
以後、医師偏在対策、地域医療構想、医師の働き方改革など国の医療政策に関わる最新情報をウォッチしながら、都道府県が抱える研修医・医師確保等の課題に対するソリューションを提供している。